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掲載日:2018/01/29

口の中をきれいにする意味

口腔内細菌叢(こうくうないさいきんそう)の変化から見た全身病との関連

 ヒトは、通常、出生時に母親から直接的に細菌叢【さいきんそう】(体内細菌)を継承され、人体に有益な細菌叢のひな型を受け継ぎ、その後幼少期における身近な人間との身体的接触、食事内容や生活環境によって、その人に特有の口腔内や腸内の体内細菌叢の種類とバランスが確立されます。病原性細菌の侵入や抗菌薬の使用によりバランスが崩れても、細菌叢の恒常性を体外の異物に対するバリア機能や免疫システムにより維持しようとします。消化器系では強酸性の塩酸である胃液、強アルカリ性である胆汁や膵液などがバリア機能を果たし、また、リンパ球などの免疫細胞の記憶により、慣れ親しんだ土着の細菌には攻撃の手を緩め、侵入した未知の異物、有害な細菌・ウィルスは強く攻撃するといった免疫システムで適切な体内細菌叢の種類とバランスを永続的に維持しようとします。
 さて、口の中の細菌叢について考えてみましょう。口は消化器と呼吸器の入り口となります。口腔内は唾液による分解酵素が存在し細菌叢の恒常性を保とうとしていますが、食事、喫煙、飲酒、他者との接触などにより、常に外的な環境の変化や細菌の侵入を最も受けやすい場所でもあります。口腔内にはおよそ300から700種類の細菌が存在していることが分かっており、細菌の数としては、よく歯磨きをして清潔にしている人でも1,000億個、歯をほぼ磨かない人になると1兆個に達することも報告されています。まずは歯に付着した細菌の塊、プラークを適切な歯磨きで落とすことが重要ですが、それを怠ると排水口のぬめりのようなバイオフィルムを口腔内に形成して清潔に保つことが困難になります。
 口腔内の細菌が多いことは決して良いことではなく、下流の細菌叢の乱れを誘導する原因になります。近年では口腔内の細菌が原因で発症する歯周病と様々な全身疾患との関連が多く報告されています。動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞の血栓の中には歯周病菌が検出されますし、糖尿病、心内膜炎、低体重児、早産などでも歯周病との関連があると言われています。さらに昨年、歯周病発症につながる2種類の口腔細菌が膵癌の進展リスク上昇に関連することも報告されました 出典1)。また、現在の日本の死因第3位である肺炎では口腔内細菌の誤嚥性肺炎が大きな原因の一つです。
 歯と口のケア(口腔ケア)は、むし歯や歯周病予防のためだけでなく、全身の健康を守るためにとても大切です。口腔ケアの目的は、1.むし歯、歯周病の予防 2.口臭の予防 3.味覚の改善 4.唾液分泌の促進 5.誤嚥性肺炎の予防 6.会話などのコミュニケーションの改善 7.生活のリズムを整える 8.口腔機能の維持・回復につながること、であり、それに加えて、口腔の汚れ、口腔内細菌叢の変化が全身の疾患にまで関連することが分かってきています。口腔ケアは誰にでもできる、いつでもできる、どのような状態の人にも必要な、手軽な、しかし、とても重要な医療行為であることを心に留めておく必要があります。

[出典]

1)Gut. 2016 Oct 14. 2016-312580. Human oral microbiome and prospective risk for pancreatic cancer: a population-based nested case-control study. Fan X et. al.
2)一般財団法人 日本口腔保健協会ホームページ

[執筆者]愛知学院大学 歯学部 外科学講座 教授 野本 周嗣

[監修]公益社団法人 愛知県医師会

[このページの内容に関する留意点]

ご紹介している健康情報は2018年1月時点のものです。

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